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第七十話 選択肢をお選びください。

last update Last Updated: 2025-09-23 08:00:00

 七十話 選択肢をお選びください。

 どうして今まで気づかなかったのか。レイングとロロンに匂いの事を話すと、二人は首を傾げた。

「バラの匂いなんてしないよ〜」

「俺もだ」

 二人が嘘をついているようには思えない。と言う事は、この匂いを探知出来たのはプレイヤーだからなのか。この匂いが何を意味するのかは分からないが、何の情報もないこの状況に一筋の光が見えたのには変わりない。

「どこから匂いがするんだ?」

「真っ直ぐだね。近くまで行かないと、それから先は分からないけど」

「賭けてみるか」

 こんな話を笑わず聞いてくれる二人の存在が支えになっている。情報がないからこそ、どんな些細な事も見落とさないように、慎重に確かめていく。

「……俺を信じてくれるんだな。ありがとう」

 俺を先頭に匂いがする方向へと駆け出していく。その先には敵がいる可能性が高い。相手は俺達が前に進まないように、何かから遠ざけるように、時間を賭けて戦闘をしていた。そう考えると、これ以上チンタラする事は避けた方がいい。

「急ごう」

 声かけをすると、二人は答えるように、今まで以上の全速力で先を目指していくんだ。

 ラウスが戦闘から離脱したと言う事は、彼自身はハニン達とは違う方向へと向いて走っているはずだ。カリアはそれを見越して、ハニンの元へと舞い降りた。

 突然現れたカリアの存在に驚きながらも、納得したように頷くと、口を開く。

「どうやら息子が迷惑をかけたようだな」

「しゃーないわ。まだ若いんやし。オイラはそんな事で怒らへんよ」

 口ではそう言い切るが、内心では怒りに満ちている事が分かる。ハニンは見透かしたように視線を送ると、頭を抱え始めた。

 ふと意識が逸れてしまうと変化の力が揺れてしまう。感情の不安定は全ての計画を潰しかねない。

「ラウスには匂いをつけておいたで。それは主人公にしか把握出来ないけど、充分やろ」

「……匂い?」

「そうや。尾行させる為のカモフラージュ
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